江戸時代における「推し活」は、時代背景も異なり、現代とは異なる形を持ちながらも、本質的な部分では驚くほどの共通点を持っている。今回は、2023年に早稲田大学演劇博物館で開催された「推し活!展―エンパクコレクションからみる推し文化」に携わられた東北大学大学院文学研究科の赤井紀美准教授に取材を実施。当時の人々がどのように「推し」を応援し、熱中していたのかについてお話を伺った。
江戸時代後期、庶民にとって歌舞伎は最大の娯楽であり、エンターテインメントの中心であった。歌舞伎役者は現代のアイドルや俳優のような存在であったが、彼らのブランド性は絶対的なものではなく人気に左右されていた。実際、役者自身も「贔屓」と呼ばれるファンを大切にし、彼らの支持を得ることが成功の鍵となっていた。
現代の「推し活」に欠かせないグッズ収集に相当する行為も、江戸時代には存在した。例えば、浮世絵は現代のブロマイドのような役割を果たし、人気役者を描いたものが数多く流通していた。役者の紋を使用したうちわや小物類も販売され人気を集めるなど、推しを連想させる色やアイテムを生活に取り入れる文化がすでに存在していたことがうかがえる。出版文化の発展により、舞台のノベライズも盛んに行われ、推しの活躍を活字で追いかける楽しみもあった。
一方で、現代とは大きく異なるのが推しの情報を得る手段だ。SNSが無い時代、人々はうわさ話を通じて情報を共有していた。劇場では11月に「顔見せ番付」と呼ばれるポスターが配布され、役者の序列を示す指標となった。このような情報をいち早く手に入れることが、ファンとして一つのステータスであると見なされていた。
推しへの愛の表現方法も多岐にわたった。現在におけるファンクラブのような存在の「贔屓連」とよばれる愛好団体が存在した。加えて、役者を讃える狂歌が詠まれることもあった。これは、現代のファンレターや応援メッセージにも通じるものがある。赤井准教授は「何かを愛し、応援し、それを生きがいとする気持ちは昔も今も変わらない」と語った。推しを愛し、応援する気持ちは時代を超えて普遍的なものであり、それが形を変えながらも現代へと受け継がれている。
(仲渡咲季)
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