書評 『アルジャーノンに花束を』

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『アルジャーノンに花束を』 著者:ダニエル・キイス 訳者:小尾芙佐  出版社:株式会社早川書房  発行日:1999年10月15日

物語の主人公は、32歳になっても幼児の知能しかないパン屋の店員チャーリイ・ゴードン。彼は、ビークマン大学の知的障害成人センターに通って読み書きを学び、またそれ以上の知能を得ることを日々望んでいた。そんなチャーリイに、大学の教授が頭をよくする手術をしてくれるという話が舞い込んだ。物語は、チャーリイが手術を受け、そしてどのように彼が変化していくのかを、彼が記した経過報告の形で進んでいく。

物語全体を通して描かれるのは、知能だけに留まらないチャーリイの成長である。もちろん手術によって彼のIQは驚くほど成長し、大学教授をも凌駕するほどになった。しかし、彼が得たのはそれだけではない。愛や憎しみ、羞恥など日頃私たちが自然に感じているものに彼は初めて出会ったのである。未知の感情に悩み、葛藤するチャーリイに強く心を打たれるとともに、普段私たちが感じている感情というのは、簡潔な文章で言い表すことのできるものではなく、そのような複雑な感情の中で私たちは生きているのだということを実感させられる。

そして、話のポイントとなるのは、タイトルにある「アルジャーノン」の存在である。アルジャーノンは白ネズミで、チャーリイが受けたものと同じ手術をチャーリイよりも先に受けている。彼らは同じ手術を受けた者同士であり、お互いに競い合って知能を高めていく。しかし、チャーリイはアルジャーノンを通して手術を受けた者の行く末を知る。もし自分がチャーリイと同じ立場だったら、自分のこれからの姿を知ってしまった後にどのような行動をとるのだろうか。優先するべきは理性的な知能なのか、または自分の衝動的な感情なのか。このように読者に対して深い思考を促す存在としてアルジャーノンは描かれている。

「人生において大切なものとは何か」というのが、本書の問いかけであろう。高い知能があれば幸せなのか、それともそれ以外の要素が重要なのか。これ以上ないレベルの知能を手に入れたチャーリイの物語を通してこの問いについて考えてみてほしい。

(野口萌花)

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