『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』の第1章が7月18日から公開されている。本作では、物語のクライマックスである無限城での決戦が描かれる。
『鬼滅の刃』には、暗い過去を抱えるキャラクターが多く登場する。本作は鬼殺隊隊士と鬼が死闘を繰り広げるが、両者とも居場所や大切な人の喪失を経験しており、そのことが彼らの在り方に大きな影響を与えている。『鬼滅の刃』は、喪失は個人を変貌させるという普遍的な事実を示している。
私たちの日常もまた、喪失と隣り合わせだ。2020年代を振り返ってみても、新型コロナウイルスの流行や能登半島地震は、多くの人々の生命を奪い、他者との繋がりを大きく損なった。こうした出来事は、私たちが突然、何かを失う可能性を突き付ける。
喪失とどう向き合うのか。「悲しい過去は忘れたほうがいい」という声もあるし、そうすることが救いになる人もいるだろう。しかし、忘却とは異なる道もあるのではないか。『鬼滅の刃』で炭治郎や鬼殺隊の隊士は、死者を心に刻みながら戦い続ける。死者は記憶の中で生き続け、生きる隊士に力を与える。現実の喪失は多様であり、1つの答えを見出すことはできない。しかし、彼らの姿からは、失われた存在との絆を大切に記憶して生きるという1つの道を見出すことができる。
大切な存在を突然失った痛みは、簡単に消えることはない。時として怒りや悲しみ、無力感として現れるかもしれない。それでも、喪失の痛みを自分のペースでそっと抱きしめ、失った者との思い出を心に刻むことは、それを糧として新たな一歩を踏み出す力になるかもしれない。
(前田知哉)



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