大勢の人が集まり盛り上がる、音楽フェス。コロナ禍で大規模なイベントの実施が難しい現在でも開催を望む声が尽きないのは、そこにしかない魅力があるからだろう。今回はそんなフェスに着目する。
フェスは、複数のアーティストの音楽を楽しめるライブ・エンターテインメントだ。日本においては1997年の第1回FUJI ROCK FESTIVALがルーツとされ、2000年ごろから広まった。通常のライブでは観客が1つのステージに集まるが、フェスでは会場内に点在するステージやフィールドで並行してライブを実施。参加者を楽しませるため、巨大なオブジェや足湯などが用意されることもある。
大きな特徴は「復習型」の楽しみ方であることだ。フェスでは特有のまったりとした雰囲気に流され、当初の計画通りにライブを巡ることは難しい。そのため、何度か参加するうちに、見るライブをいくつかに絞るようになることが多い。目当てのライブがない時間には盛り上がっている他のライブを遠くから眺めたり、偶然通りかかったステージを見たりして過ごす。こうして参加者は、自分の知らなかったアーティストと出会う。これが、後日気に入ったアーティストのCDを聴いたり、ワンマンライブに行ったりするという「復習型」の楽しみ方につながる。
参加者の中には、フェスでライブを見る時は1人でも良いと考えているが、より充実した時間を過ごすため、旅や寝食を共にする「フェス仲間」をつくる人もいる。複数のライブが同時に進行するフェスでは、参加者間のつながりが薄くなりやすい。しかし、「フェス仲間」という小集団で感情を共有することで「フェス」という大きな集団につながっている感覚を得られる。参加者にとってフェス仲間は、アーティストと同等かそれ以上に重要な存在だ。
長らくフェスは歓声を上げることや観客の人数などの制限を受けてきたが、感染状況の好転に伴いイベントへの規制は緩和されつつある。今後、フェスに安心して参加できる世の中になることに期待を寄せたい。
(梶原万穂)
《参考文献》
ロックフェスの社会学 個人化社会における祝祭をめぐって(永井純一、ミネルヴァ書房、2016年)
コメント